カフェでベーカリーで時々屋台。coffee, bread, veggie dishes, and mobile kitchen.

コーヒーを美味しく入れる幾つかのティップス2012/07/05 20:03

大切な友だちが亡くなった。彼女は、たまにチョコレートがたっぷり入ったパンが大好きな旦那さんと来店してくれていたが旦那さんを亡くなした後も一人で来店してくれていた。やがて彼女は海外に引っ越した。いつも帰国すると店に顔を出して、食事を終えるとコーヒーを飲みながら色々な話したものだ。コーヒーについて、食について、思想/文化について、時間についてなど。

去年は遂に葉山住まいとなり、散歩を楽しんだ帰りにはコーヒーを飲みに店へ寄ってくれた。どうやら、その頃から身体の具合が思わしくなかったようだ。すぐに鎌倉、そして東京と、治療に通いやすい場所へ引っ越してしまったが、店に来れなくなるとメールやフェイスブック、ツイッター上でコーヒーの話やサンドイッチの話をした。

やがて彼女は入退院を繰り返すようになった。病名と病状はBOSSが教えてくれた。「こっちからコーヒーセットを持って東京へ出張コーヒーするよ」と日取りを決め始めたのは桜がまだ咲く前だったろうか。新しく下ろした布フィルターも熟れて豆もいつでも最高な状態のやつを持って行けるように準備したが、なかなか日取りが決まらない。

桜は散り、ツツジも終わり、梅雨に入ってしまった。連絡も疎らになり、もしかしたら彼女はもうコーヒーを飲めないんじゃないかと焦り始め、香りだけでも、と豆を送ろうと考えていた矢先に訃報が届いた。

そして東京の斎場で行われる彼女を送る会へ、コーヒーセットを持ち込んで最後のコーヒーを入れようと考えた当日の朝、焼き上がったばかりの豆を入れて飲んだ。…美味くない。まだこの豆はベストの状態になっていない。残念だが会場でコーヒー入れるのは止めて出かけよう。なれない喪服を着てBOSSと東京へ向かった。

あっさりと会が終わり、身軽な身体で久しぶりの友だちと会い、別の友だちと会うまでの時間つぶしに三宿から代官山までぶらぶらと散歩した。よくよく考えてみれば亡くなった彼女がかつて住んでいた辺りを散歩していたらしい。夜は原宿で友だちがDJをしている店で久々に酒を飲んだ。生きている友だちと死んだ友だち。そんな事を考えながら。

コーヒーを美味しく入れるには幾つかのティップスがある。それらを守っていれば大体誰でもできるものだ。まずは良い豆、適切な焙煎。仕入れた豆の状態は日々変わる。それを見極めながら適切な挽きと湯温と蒸らしと抽出時間を調整し、必ず味見をする。これらを守るだけで美味しい一杯を入れらる。

僕は最後の一杯を彼女に届ける事は出来なかった。彼女が心底美味しいと言ってくれるコーヒーを入れたかったから諦めたのだ。

昨日は久々の東京の実家へ、コーヒーセットを持って帰り家族の為にコーヒーを入れた。会心の一杯だった。この一杯ならきっと彼女も喜んでくれるんじゃないかというコーヒーだった。僕はこういうコーヒーを彼女の為に入れたかったのだ。

僕はコーヒーを出す前に必ず味見をする。飲む人が美味しいと思えるコーヒーを入れる為に。そしてこれからは彼女の為にも。

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